こんにちは、みそら税理士法人の奥田です。

法人が所有する車両を、従業員や役員、あるいはその家族といった個人に売却・譲渡するケースは珍しくありません。しかし、適正な金額設定や、それに伴う税務処理を誤ると、思わぬ課税リスクを招く可能性があります。
本記事では、法人車両を個人に売却・譲渡する際に知っておくべき税金の種類や、必要となる手続き、さらに知っておきたい注意点について、専門的な視点から詳しく解説します。
目次
法人から個人への車両売却・譲渡、なぜ「時価」が重要?
法人所有の車両を個人に売却する際、多くの人が「帳簿上の金額」を基準に考えてしまいがちです。しかし、税務上の正しい取引では、簿価ではなく「時価」で金額を算定することが原則となります。
時価とは、その取引時点において、市場で形成されている公正な価格のことです。中古車の場合は、車種、年式、走行距離、車の状態などによっておおよその相場が決まっています。
税務調査では、この「時価」からかけ離れた不自然な取引(売買金額が低すぎる、あるいは無償での譲渡)は、税務上の問題として指摘されるリスクがあります。複数の買取業者から査定を取り、その平均値を「時価」と判断するのが一般的な方法です。帳簿上の金額がたとえ1円であっても、市場価値が50万円であれば、時価は50万円と考えるのが妥当です。
売却・無償譲渡で発生する税金の種類と正しい処理方法
法人と個人の間で車両の売却・譲渡を行う場合、それぞれに異なる税金が発生する可能性があります。
法人が支払う税金
- 法人税:売却価格が車両の帳簿価格を上回った場合、その差額は「売却益」となり、法人の事業収益として法人税の課税対象になります。
- 消費税:法人が所有していた事業用資産を売却する場合、原則としてその売却金額に対して消費税(10%)が課税されます。消費税の計算は、取引金額から消費税額を差し引いて「仮受消費税」として経理処理を行います。
個人が支払う税金
- 所得税・住民税:最も注意が必要なのが、時価よりも低い金額で取引した場合(無償譲渡を含む)です。税務上、時価との差額が「現物給与」とみなされ、購入した個人に所得税や住民税が課される可能性があります。
ケース別:税務上のポイントと注意点
ケース①:適正な「時価」での売却取引
中古車市場の相場を参考に、適正な「時価」で売買を行うのが、最も税務上のトラブルを避けられる安全な方法です。この場合、個人側への税金は発生しません。
ケース②:時価より低い金額での売却(無償譲渡を含む)
この取引は、時価との差額が「給与」や「寄附」と見なされる可能性が高くなります。
- 法人:売却益があれば法人税が課され、消費税も発生します。
- 個人:時価との差額が給与とみなされ、個人の「給与所得」として所得税・住民税の課税対象となります。この金額は、給与所得控除の対象外となるため注意が必要です。
ケース③:役員への売却の場合
役員への売却で、時価よりも低い金額で取引した場合、時価との差額は「役員賞与」として扱われます。
役員賞与は、原則として法人税法上、法人の損金(費用)として算入することができません。つまり、法人税の負担が増加する可能性があるため、特に注意が必要です。
譲渡手続きと必要書類
法人から個人への名義変更には、陸運局での手続きが必要です。一般的に、以下の書類が必要となります。
- 車検証
- 譲渡証明書(法人代表者印が必要)
- 委任状(法人代表者印が必要)
- 法人の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 個人の住民票
- 自動車税申告書
- ナンバープレート(管轄が変わる場合)
- 自動車保管場所証明書(車庫証明)
これらの書類を正確に準備し、スムーズに手続きを進めることが大切です。
中古車を売却するタイミングと自動車税・軽自動車税の関係
自動車税は、毎年4月1日時点の所有者に1年分が課税されます。このため、3月中に売却・名義変更を完了させることで、翌年度の納税義務がなくなります。
4月2日以降の売却の場合は、一旦1年分の自動車税を支払った後、名義変更した翌月からの月割り分が還付されることになります。なお、軽自動車税には還付制度がないため、3月中に名義変更を完了させることが経費節減につながります。
売却損益と減価償却費の処理方法(仕訳例)
法人が車両を売却して得た利益は「固定資産売却益」、損失は「固定資産売却損」として処理するのが一般的です。
(例)取得価額300万円、減価償却累計額200万円の車両を120万円(税抜)で売却した場合
- 売却益:売却価格120万円 - 帳簿価格(300万円 - 200万円)= 20万円
- 仕訳(税抜処理の場合)
- 借方:現金預金 1,320,000円
- 貸方:車両運搬具 3,000,000円
- 貸方:減価償却累計額 2,000,000円
- 貸方:固定資産売却益 200,000円
- 貸方:仮受消費税 120,000円
まとめ:顧問税理士への事前相談が安心への近道
法人から個人への車両譲渡・売却は、金額や経理処理を誤ると、後々大きな税務上のリスクを抱えることになります。無償譲渡を含め、適正な時価を確認し、顧問税理士に事前に相談することが、正しい税務処理と安心な取引を実現する最善の方法です。
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