土地の相続税の計算方法は、税理士により異なる場合があります。相続に慣れている税理士とそうでない税理士の違いです。日頃から評価方法を熟知しており、相続に関する税制の動向を把握している人であれば安心ですが、すべてがそのような税理士とは限りません。
そこで「土地はどのように評価し、相続税を計算するのか」というポイントを中心に解説します。
土地の評価をする
相続財産に土地や家屋がある場合、相続税の申告用に評価しなければなりません。
土地は国税庁が毎年発表している「路線価」と「倍率」により評価します。
「路線価」という表現は国土交通省が発表する「公示価格」、都道府県が発表する「基準地標準価格」、市町村が発表する「固定資産税評価額」、国税庁が発表する「相続税評価額」が該当します。
相続税の計算で採用する路線価は国税庁の「相続税評価額」です。相続税評価額は時価評価で計算します。
その都度評価を行うので、「前回は〇〇円で評価されていた」というものは利用することができません。
路線価方式による評価方法
相続税の計算のほか、贈与税の申告にも路線価を活用します。この路線価による評価補法を適用できるのは、市街地に宅地がある場合です。
路線価図には、宅地が面している道路に路線価格が記載されておりそれをもとに計算をします。路線価図に「400C」や「53C」と表記されているものが路線価になります。単位は「千円」です。
例えば200㎡の宅地に200千円の路線価が設置されていたと仮定します。この場合、200千円×200㎡=40,000千円となり、評価額は40,000千円になります。
つまり、相続財産として40,000千円の宅地を引継いだことになります。
倍率方式による評価方法
倍率方式を採用する土地は、路線価の設定がない土地です。路線価は都市部に設定されていますが、いわゆる地方郊外の「田舎」といわれるところには路線価の設定はありません。
そのため、路線価ではなく倍率方式で相続財産を評価します。倍率方式を採用する土地は、固定資産税評価額に路線価同様に国税庁が公表している「倍率」をかけて評価します。
倍率は国税庁のHPから簡単に確認できます。固定資産税評価額は固定資産税評価明細を市区町村から取寄せることで確認できます。
また、年に1度5月から6月にかけて送付されてくる固定資産税の納税通知書があれば、それでも確認できます。
例えば、土地の故地資産税評価額が2,000万円、倍率が1.1の地域であれば、次のような計算式から求められます。
2,000万円かける1.1=2,200万円このようになります。
計算そのものは非常に簡単ですので必要な書類を収集できるかがポイントです。
事前に贈与をしている場合
相続税の計算をするときに、それまでの贈与の有無は確認しなければならない最も重要なポイントです。相続税の唯一といって過言ではない節税方法は「贈与」です。
将来必ず発生する相続に備えるための方法なので、相続時精算課税を含め確認しておきましょう。そこでここでは贈与がある場合の相続税について確認します。
生前贈与の場合
そもそも生前贈与は、相続税の税率よりも高く設定されています。場合によっては相続でそのまま基礎控除のほか、税額控除を適用する方が有利なこともあります。
そのように考えると、「贈与の必要性はあるのか」という疑問があります。では生前贈与にどのような効果があるのでしょうか。
- ①将来の相続財産を減少させる効果
- ②将来発生する相続税の納税資金の確保
上記2点がそのポイントです。
実際に、土地や建物などの不動産で相続すると納税資金が足りないというケースがあります。相続税は基本的に「現金」で納付するものです。
そのため現金がない場合にどうすればよいのか考えてく必要があります。生前贈与を計画的に行うことで、相続財産をゼロにできることもあります。
ですから、税率が高いといってもメリットはあります。
相続時精算課税制度の場合
将来相続する財産を前渡しできる制度です。被相続人になる親とその財産を引継ぐ可能性がある相続人である子と孫にその権利があります。
相続時精算課税には非課税限度がり、限度額は2,500万円までです。ただし「前渡し」の制度なので、実際に相続が発生したらその段階で相続税が課税されます。
ではなぜこのほうほうが土地の相続に有利なのでしょうか。
相続時精算課税は財産の「前渡し」であり、実際に相続が発生したときに相続税を計算します。
相続税はその時の「時価評価」なので、相続時精算課税で先に渡した土地は、その渡したときの土地の時価で評価します。
「将来この土地は値上がりする」と分かっているような場所であれば、時価が低い間にその土地を贈与してしまうことで相続税を抑える効果があります。
例えば所有している土地が、数年後近くに大型ショッピングモールがオープンするから土地の評価額が上がる可能性がある、外交の玄関口になる可能性がある、など将来評価額が上がる要因がある場合には、今から相続時精算課税を検討しておくとよいでしょう。
そのほかの場合
贈与は贈与税を納付しているので、基本的にはその段階で完結しています。
例外的に先に触れている相続時精算課税が「持ち戻し」という形で相続税の計算に加算されますが、一般的には相続発生時の時価よりも低く抑えられているので、持ち戻しが起こっても不利になることは考えにくいのです。
その他にも、多くの人が良く耳にする「暦年贈与」と呼ばれる年間110万円までは非課税で贈与税の申告の必要がないというものがあります。
これも「110万円」と聞くと現預金でしか贈与できないのでは、と思われがちです。しかし実際は、評価額が110万円を超えない範囲で持分を変更していくことができます。
イメージとしては、「土地の切り売り」のようなものです。実際には売却ではなく贈与ですが、部分的に親から子へ土地という財産を贈与することになります。
その他、相続税そのものを抑えるためにできる贈与の種類はさまざまです。どのような方法があるか知りたい方は専門家に相談するのが良いでしょう。
複雑な土地の評価はどうするのか
土地の評価には「路線価評価」と「倍率評価」があり、時価評価で計算することが分かりました。
また相続時精算課税や暦年贈与をうまく利用して土地の相続税を抑える方法がることも分かったところで、実際に贈与する土地がきれいな形をしているとは限らないという疑問が浮かびます。
きれいに整っていない土地とはいえ、土地は土地です。相続財産にその土地が入っていれば当然相続税評価額を出さなければなりません。
そこでここでは「いびつな形をしている土地」と「誰かに貸している土地」について解説します。
いびつな形の土地の場合
「先祖代々山を受け継いでいる」や「別荘があって、形がきれいではない」といったことは珍しい話ではありません。
また「家の裏に崖があって、そこもうちの土地です。」ということもあります。そういった「いびつな土地」はどのように評価するのでしょうか。
結論から言うと「がけち補正率」というのがあり、この補正率をもとのに計算します。
計算式は「がけ地の地積÷総地積」でがけ地部分の割合を計算します。
そのうえで評価額は「路線価×奥行価格補正率×がけ地割合(先に求めたもの)×地積」で計算できます。
がけ地割合をかけるところは、がけ地に方角によりますのでそこには注意が必要です。
そのほか、山で所有している場合は次のようにおこないます。
山林の種類3つ
- ①純山林…宅地の影響を受けない市街地から離れた山林
- ②市街地山林…市街地にあり、宅地の異教を受ける山林。イメージするなら住宅街の中にある山林です。
- ③中間山林…①と②の中間のようなイメージです。市街地近くにあり純山林よりも売買価格が高い山林です。
この①と③は倍率方式で相続税評価額を計算します。
山林でも、市区町村からは固定資産税の評価明細書が送られてくるので、それに倍率をかけて計算します。
もしこれが分からない場合には、名寄帳を入手するとわかります。
※名寄帳とは
土地や家屋のうち、固定資産税の課税対象となっているものを所有者ごとに一覧表にしたもので、別名「固定資産課税台帳」といわれることもあります。(多少役所で呼び方が異なります)市区町村で入手可能です。
例えば、①の倍率での評価をする場合は以下の通りです。
- 固定資産税評価額が100万円
- 倍率が4倍
上記の場合は、100万円×4倍で400万円が相続税評価額になります。
ただし実際には、市街地から離れている山林の場合、別荘地等の特殊事情がない限りは固定資産税評価額がほぼゼロに等しい場合もあります。
その場合は、相続税評価額が非常に低いことも、めずらしくありません。次に②を評価する場合はどうなるのでしょうか。
こちらは「宅地比準方式」という方法で計算します。これは、宅地の間にある山林のため実際に宅地としてその山林を造成した場合にかかる造成費を想定し、その金額を控除して評価する方法です。
計算式は次の通りになります。
「山林を宅地とした場合の評価額-造成費=市街地山林の相続税評価額」
ただしこれを利用するのは宅地が路線価方式で評価できる場合であり、宅地部分が美率地域に属する場合は、宅地比準方式を利用するのではなく倍率方式を適用します。
さらに②であっても、たくちとして造成することができない場合には、①として評価します。
この評価方法については難しい点も多いため、自己で判断せず専門家に依頼することをおすすめします。(純山林評価を適用するためにはその要件があるため)
誰かに貸している土地(借りている土地)の場合
「誰かに貸している土地=借地権」を意味します。
建物は借りている人の持ち物でも土地は貸主が別にいるという場合、このケースは珍しくありません。
しかし実際相続が発生すれば、土地は土地を所有している人の財産ですから、相続税財産として評価しなければなりません。
参考までにこの場合の土地を「底地」や自分名義の土地の場合は「自用地」さらに借りている土地の場合は「借地」と表現します。
借地に建てた家を相続した場合
借地権という価値を相続しています。つまり、その評価額をもとに相続税の計算をしなければなりません。
借地権の相続税評価額の計算方法は、次の通りです。
借地の評価額=自用地評価額×借地権割合=(路線価×土地の面積(㎡))×借地権割合
この計算式が何を意味しているのかといえば、自由に使える土地の部分があるのでその部分については相続財産として相続評価をしてくださいというものです。
貸地の場合
「誰かに貸している土地を相続した」という場合です。
この場合の計算式は次のようになります。
貸地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合)=(路線価×土地の面積(㎡))×(1-借地権割合)=自用地評価額-借地の評価額
簡単にいうと、自由地評価額を賃貸借人の間での割合で按分しているようなイメージの計算です。
借地権割合とは、この一定割合を指しています。これを見てもわかるように、相続税の節税対策を考える際には「誰かに貸している土地」についても考慮しなければなりません。
小規模宅地の特例を適用したい場合
最近脚光を浴びているのが「小規模宅地の特例」です。これを用いた税額控除により相続税評価額を最大80%まで減額できるいわば優れものです。
この特例は、被相続人が住んでいた場合はもちろん事業用で使用していた場合にも適用できる点がポイントです。
ではこの小規模宅地の特例を適用した場合についてここでは簡単に説明します。
小規模宅地の特例とは
被相続人が住んでいた土地、事業をしていた土地について要件を満たすことで80%から50%の相続税評価額の減額ができるという特例です。
この倍の要件とは、「被相続人と一緒に生活していた親族」で「宅地等が建物または構築物の敷地である」ことがあげられます。
一緒に生活しているというのは、専門用語で「生計を一(いつ)にする」といいますが、イメージとしては同じ一つの財布で生活していると考えればよいでしょう。
この2点を満たすことが大前提で、宅地の種類と取得者の要件を満たせば適用できます。
この要件については判定区分が複雑なため、国税庁HPで確認するか専門家に相談することをおすすめします。
余談になりますが、二世帯住宅も小規模宅地の特例が適用できます。ただし、建物が区分登記されていないことが条件です。
また底地は親名義であること、子は親に対して賃料を支払っていないことも確認しなければなりません。
一時期二世帯住宅が流行っていたためそろそろその年代が相続や贈与を検討する時期に入ってきているとも言えます。
特例適用できる面積には限度があり、減額割合も居住用なのか事業用なのかで変わるため、一律に「〇〇円減額です」とはいえません。
そこで簡単に小規模宅地の特例を適用した計算方法について次に紹介します。
小規模宅地の特例を使った計算方法
もともと小規模宅地の特例は3種類に分類されます。
- 特定居住用宅地等の限度面積330㎡、減額割合80%
- 特定事業用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等の限度面積400㎡、減額割合80%
- 貸付事業用宅地等の限度面積200㎡、減額割合50%
上記2つは併用可能で、最大730㎡まで適用できます。
では、一番簡単な特定居住用宅地等から例を挙げて計算します。
評価額が5,000万円、320㎡の場合 まず330㎡以下なので、320㎡の前部について特例適用可能になります。 つまり80%の減額ができるということです。では実際にどのような計算式になるのでしょうか。
5,000万円×80%=4,000万円(これが減額できる評価額) 5,000万円-4,000万円=1,000万円(相続税の課税対象額) これだけ見てもわかるように、5,000万円の相続税評価額よりも1,000万円の相続税評価額の方が、相続税は低く抑えられることが一目瞭然です。 評価額が5,000万円、500㎡の事業用宅地の場合
まず事業用宅地は400㎡までが対象ですから100㎡については適用から外れます。
そのうえで次のような計算式ができます。
5,000万円×400㎡÷500㎡×80%=3,200万円(減額できる評価額)
5,000万円-3,200万円=1,800万円(相続税の課税対象額)
こちらの場合も評価額だけですが36%ほどの減額ができました。
このように特例を適用することで、何もしない場合よりもはるかに相続税評価額を減額することができ、結果的に相続税を低く抑えることができます。
また、その他控除を考慮すると結果的に相続税がゼロになるということも珍しくありません。
ただし、小規模宅地の特例など「特例」を適用する場合にはたとえ適用後の税額がゼロであっても相続税の申告は必要になります。
まとめ
相続税は節税対策が贈与しかないため、あまり手段がないと思われがちですが実際には相続税の税額控除をうまく利用することで、かなり税額を抑えることができます。
専門家でも税額控除の適用は慎重に資料を収集しなければ判定ができません。
小規模宅地の特例をはじめ、計算方法はやや複雑なものもありますが専門家にも相談することでその不安は解決できます。
相続は税務調査の対象となりやすい税目でもありますから、少しだけ予備知識を持って自己判断せず専門家に依頼することをおすすめします。
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