こんにちは。みそら税理士法人でございます。
税務調査は法人税や所得税の申告だけで実施されているものではありません。近年、相続税の申告でも税務調査は増加傾向にあります。
これは富裕層をターゲットにした節税対策、いわゆるグレーゾーンと言われる部分に着目しはじめたためです。
今回は相続税の税務調査の注意点についてまとめます。
そもそも「相続税の税務調査」ってナニ?
「税務調査」という言葉はよく耳にしますが、その詳しい内容については経験者でなければわかりません。
ましてやそれが「相続税」ともなると、法人税や所得税とは異なり「相続税の申告の必要性がある人」というかなり限定されたところになります。
ここでは税理士が相続税申告を請け負った場合を前提に、その注意点をみていきましょう。
相続税の税務調査には大きく分けて2種存在する
相続税の税務調査は以下の2種類が存在します。
①任意調査・・・税理士にあらかじめ調査の連絡が入る
②強制調査・・・調査の連絡がなくいきなり現場にやってくる
ここで気になるのは強制調査ではないでしょうか。
②の強制調査は、テレビドラマなどでよくみる、お店の前や家の前にスーツを着た会社員風の人たちが待っているような状況です。
ただこの状況も税理士を通じて申告していれば、まずないに等しいと言えます。
通常税理士が関与している場合には、「税務代理権限証書」というものを申告する依頼人と締結します。
ここには、税務署からの問い合わせについて税務代理人である税理士を通じて行うよう明記されています。
そのため、税務調査が実施される場合の日程調整等は必ず代理人である税理士を通じて行われます。
また、税務代理権限証書のほかに税理士から申告をした場合には「書面添付」というものをつけて申告します。
この書面添付とは、「税理士法33条の2添付書面」と言われています。
ここには税務署が問い合わせをしたくなるような内容を、先に書面で説明し申告書と一緒に提出するものです。
相続税の税務調査がくる確率
相続税の税務調査が来る確率は、申告した人の4人~5人に1人の割合です。
この確率を見ると、多くの場合は税務調査にまで発展せず申告は完了を迎えます。
しかし誰が対象となるのかという明確な基準の公表はされていません。
ですから「絶対に相続税の税務調査はない」と断言できないのです。
税理士が関与していれば事前に連絡が入るって本当?
相続税の税務調査に限らず、税務調査を実施する場合には必ず関与している税理士に事前に連絡が入ります。
これは税務代理権限証書を提出している場合に限り有効です。
この提出がない場合には、申告者である相続人に直接税務署から連絡が入る、もしくは強制調査でいきなり実地調査になります。
税理士を通じて申告したら「事前調査」が行われているという噂の真相とは
税理士を通じて申告をした場合の「メリット」ともいえるのが、事前調査の対応です。
事前調査とは実地調査(本調査)になる前に、税理士が申告書を提出した所轄税務署へ出向き、申告者に代わって質問に対応することです。
税務署の調査官は、この事前調査で知りたい内容がすべてクリアになった場合、本調査へ移行することはしません。
この時、実地調査へ移行しない旨を税務署は原則文書で通知します。
しかし、ここで問題点がクリアにならなければ本調査へ移行します。
実地調査後、非違事項があれば追徴課税かもしくは納めすぎている場合更正の請求を実施します。
非違事項がない場合には、申告是認で税務調査は終了します。
相続税の税務調査に選ばれやすい対象とは
税務調査の対象として選ばれやすい人たちがいます。主に会社の経営者や個人事業主であっても「高額納税者」といわれる人たちです。
法人の役員ともなれば、それなりに財産も所有しているのが一般的です。
また高額納税者もそれだけ所得税の申告があるということですから財産があってもおかしくありません。
こういった人たちは、相続税の税務調査の対象になりやすい傾向があります。
相続税の税務調査が来る時期
相続税の税務調査が来る時期はある程度決まっています。ただし申告をして1年経過したからもう対象ではないということでもありません。
税務署が比較的落ち着きを見せる秋頃は、相続税に限らず多くの税務調査が実施されます。
ですから、「税務調査が比較的実施されやすい時期」として秋頃は1つの目安になります。税務調査の時期については、こちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
もしも「調査の対象」になったならアナタは何をすればいい?
4人~5人に1人の割合で調査が実施されるとはいえ、いざ自分がその対象になったとしたら、そのとき何をすればよいのでしょうか。
相続税申告特有の質問を受けても答えられるように、申告書作成のために利用した資料など準備しておく必要があります。
税理士に依頼して申告した場合には、その税理士が「根拠資料」として控えを保管しているケースがほとんどです。
原本は申告者本人が管理していますが、万が一というときには税理士に相談することも必要です。
準備するものや必要書類
以下の3つは税務調査で調査官が近年必ずチェックする金融資産です。
① 被相続人の預貯金
② 被相続人の生命保険
③ 「家族名義の預金」及び「たんす預金」
被相続人の預貯金や生命保険について、税務署は金融機関へ直接確認ができる権限を持っています。
金融機関に直接連絡すれば、現在の状況や実際のお金の動きを確認できます。
特に③のたんす預金について、金融機関に問い合わせをしても調査できません。
ですから税務署側からみれば実地調査で確認しなければならない項目です。
それではこの3つについて少し詳しくみていきましょう。
① 被相続人の預貯金
税務調査で被相続人の預金通帳をチェックするポイントは、「相続発生から多額の預金引出しがされていないか」というところです。
中には、「現預金が多くあるとそれだけ相続税が多くなるから」と慌てて引出をする人がいます。
このような場合は意図的に預金を引出したとみなされ、相続財産として課税の対象になります。
税務調査のスタートラインは「この申告は疑わしい」という疑いの目でみるところから始まっています。
それはすなわち、「まだまだ税金を徴収できるのではないか」という目線で調査が始まるということです。
直前に引出すお金の用途として一般的に多いものは、被相続人が最後に支払うべき医療費や介護施設などの費用があります。
これについては、領収書が発行されます。第三者発行の領収書はその支払いの根拠を示す資料として大変有効です。
もちろん、相続財産として相続税の課税対象から外れます。しかし、領収書などの根拠資料となるものがなければ「相続財産ではない」と証明できません。
つまり相続発生直後、多額な預金の引出しは要注意項目です。
② 被相続人の生命保険
被相続人の生命保険契約も相続税の税務調査ではチェックされています。
契約書さえあれば、契約状況の中身は確認できるので相続人がなくなって保険金が入ってきたからと処分せず、支払明細と一緒に一定期間保管しておきます。
ではどこをチェックしているのでしょうか。まず、生命保険会社は支払行った場合に税務署へ支払調書を提出します。そこには契約者情報と支払った保険金に関する情報が記載されています。
税法上は「500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額」とされていますから、この通りになっているのかも精査されます。
参考までに、保険金は保険料の支払者と受取人で対象となる税金に違いが発生します。相続税のほか可能性があるのが贈与税、意外に盲点を突かれているのが所得税です。
富裕層といわれる人の相続が発生して場合には、相続税を課税されるよりも所得税の方が税金は安く済む場合がマレにあります。
これは契約の時に相続税の税率よりも所得税の税率が低いと判断できた場合のみです。ほとんどありませんが、「知らなかった」ということがないように、注意が必要です。
③ 「家族名義の預金」及び「たんす預金」
例えば「孫のために、孫の名前で通帳を作り銀行へ預ける」「将来何かの足しにしてほしいから、娘や息子名義の預金通帳を作り銀行へ預ける」というのが名義預金です。
たんす預金は、銀行口座ではなく自宅の金庫などでお金を保管しているケースです。
名義預金はその口座が誰のものなのか、という名義で相続税か贈与税かが変わります。
また、たんす預金は誰のお金なのかがはっきりしないため相続人のお金と判断されるケースも少なくありません。
ですから、調査官はこの③についても調査します。
調査は一般的に2日~3日で実施される
相続税の税務調査は一般的に2日~3日で実施されます。何もなければ1日で終了することも珍しくありません。
よほど何か申告内容とは違う書類が出てこない限り、3日間に税務調査が及ぶことはありません。
税理士から申告をしている場合は、調査の立ち合いもあり調査の終了は税理士がサインをすることで終わります。
調査でよく聞く「お土産」とは
税務調査の話を調べている人なら、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。「お土産」という言葉。
実際に、法人税の調査においてよく聞かれるこの言葉ですが相続税ではあまり耳にしないのが現状です。
ウラ話のようになりますが、法人税の調査の場合は契約書に添付されている「印紙」、つまり印紙税の未納を指摘します。
税理士試験に「印紙税」という科目がないことが象徴しているように、印紙税は税理士としての責任を問われません。
つまり、何かを持ってお手柄を取りたい調査官と税理士という資格を持っていても責任を問われない印紙税は、まさに「お土産」なのです。
最近はこのようなことが行われているというのはあまり聞かなくなりました。
昔は「先生、お土産持たせてくれるんですよね。」という忖度が行われていたようですが、今ではモラルの問題もあるので露骨にされることはなくなりました。
このように相続税の調査ということから考えれば、お土産の存在は無いに等しいといえます。
とはいえ、日ごろから契約書等の整理は行っておくことをおすすめします。
相続税の税務調査で確認される5つの質問
相続税の税務調査では、調査官が特に目を光らせているチェックポイントについて質問されます。
その多くは以下のような内容です。
①遺言書があるかどうか
②相続財産の収集方法
③誰が相続人なのか
④遺産分割の状況
⑤預金口座について
①遺言書があるかどうか
遺言書がある場合とない場合で、手続きの方法が変わります。
遺言書がある場合は、執行人が存在するためその人の指示に従って遺言を実行する必要があります。
執行人が財産を分けるわけではありません。遺言書は公正証書遺言と秘密証書遺言があります。
余談になりますが、遺言書としての効力を発揮するために作成する際は公正証書遺言にすることが望ましいでしょう。
いざ「遺言書に沿って財産分与を始めようとしたら、遺言書に不備が見つかった」というケースもあります。
具体的に多いのが日付や印鑑の押印漏れなどです。このような不備が見つかった場合、民法の原則にしたがって財産分与をします。
つまり、個人の意思通りの遺産分割が行えないことも出てくるのです。
こいった不備をなくすためにも、事前にチェックを受けながら作成できる公正証書遺言が望ましいでしょう。
②相続財産の収集方法
相続財産の収集方法に誤りがあれば、「相続税の計算そのものがあっているかどうか」という問題になります。
調査に踏み切る場合には、事前に相続財産について調べてから実施しますから、考査感もある程度把握している状態です。
その把握している財産と異なる情報があれば、明確にするために被相続人や税理士から聞き取りをします。
また、調査官自身が調査した資料を基に質問されるケースもあります。中にはこの時に相続人が知らない財産がでてきて、結果的に申告漏れを指摘されるといったことも発生しています。
そのほか、「相続税での申告ではなく、贈与税での申告ではないのか」ということもチェックされています。
相続税と贈与税は非常に関係が深い税金です。
その関係性を確認するのは不思議なことではありません。
③誰が相続人なのか
相続人の数で控除できる金額が変わるものがあります。保険料控除もそのうちの1つです。
また養子縁組や代襲相続人がいたりなど、正確な相続人を把握する必要があります。
代襲相続人がいる場合、その要因となった亡くなった人についても軽く聞き取りされることがあります。
代襲相続は、本来今発生している相続税の申告で相続人となるべき人が先に亡くなっているため相続財産が受け取れないという場合に発生します。
その時に、すでに発生していた代襲相続の要因となった相続の内容、相続税の申告に必要な親族関係図は重要になります。
相続人について、税理士から申告していれば被相続人と相続人の戸籍謄本から確認しますから、誤りがあるケースはほとんどありません。
むしろその時に、相続人も知らない相続人が現れる可能性があります。
個人で申告すると、この作業が煩雑になりがちなので相続人が誰なのか、ここは必ず確認されるポイントです。
④遺産分割の状況
遺産分割とは、多くの場合は決定した財産分与をもとに税理士が税務申告をします。そのため、税理士が助言をすることはあっても決定することはありません。
しかし、どのように分割すればいいのかという相談がしたい場合に、多くの税理士は提携している司法書士や弁護士がいます。
その人たちを紹介してもらえるので、分割方法で悩んでいるといった場合でもまず入り口として税理士に相談することは、正しい選択といえます。
遺産分割の方法も1つだけしかない収益物件である土地や建物を、複数人の相続人で分けるという、単純にはいかないケースもあります。
このような場合は収益物件から得た収入、つまり金銭に代わっている状態で相続人に分けるといったことも珍しくありません。
相続税の税務調査の調査官はこういった点にも着目しています。
そのほか、相続税を申告するときには「まだ誰がその財産を相続するのか、その分割方法が決まっていない」ということもあります。
この場合は相続税法ではなく民法に従って「仮申告」という形で未分割のまま申告します。
そして仮申告した場合は、のちに分割が決定した後であらためて申告をします。
当然ですがこの「未分割」の財産が、分割決定後の相続財産から漏れていないかどうかもチェックしています。
⑤預金口座について
預金口座については前述したとおり、名義預金など本来は相続財産として申告しなければいけないものがないかどうかをチェックします。
この時、この名義預金の通帳の印鑑がどのように保管されていたのかもチェックされますので注意が必要です。
ここまででわかることは、相続財産によって相続税の税務調査で確認されるチェックポイントが異なるということです。
税務調査に入られたら、必ず「追徴課税」されるもの?
「税務調査=追徴課税」と思ってしまいがちですが、意外にそうではありません。
税理士から申告をすれば、相続税申告の計算根拠である書類の提出を相続人から求めます。
当然ですが、この書類をもとに相続税の申告をします。ですから、完璧な相続税の申告書を作成していれば必ずしも追徴されるということはりません。
逆に個人で申告をして軽微な計算ミスが発覚した場合、それがどんなに軽微であっても納税額に誤りがあり不足していれば追徴課税となります。
追徴課税は必ずしも高額になるわけではなく、低額で済むこともあります。
ただし、計算ミスをどこで行ったのかによってその後の計算にも影響が出る場合があります。
そういったミスを防ぐためにも、専門家である税理士に依頼するとよいでしょう。
実は相続税の税務調査を受けるメリットもある
税務調査は「疑いを晴らす場面」でもあります。例えば、申告書の数字の内容だけでは説明しきれないようなことも、税務調査が実施されれば説明の機会が与えられます。
これは申告する側にとって非常に有利と言えます。もともと調査官は、相続税の申告書にある背景は知りません。
相続人など登場人物を詳細に把握していく割には、数字だけを追っています。
ですから税務調査はチャンスです。このほかにもメリットはあります。
一度税務調査をした内容はそのまま確定されます。追徴課税となった場合も、申告是認となった場合もその結果をもって確定します。
見方を変えれば「税務署お墨付き」となるのです。これは申告した相続人にとって、その後何か再度調査が入るということもありません。
適正な納税をしたという証拠にもなります。ですから必ずしも「税務調査はマイナスイメージだけ」ではないのです。
まとめ
相続税の税務調査にはいくつかの調査ポイントがあります。
また税理士を通じて申告することで、税務署からの調査連絡をダイレクトに受けることを防げます。
税理士は相続人に代わり、申告した内容について代わりに税務署の調査官へ説明してくれます。
その説明で納得がいけば本調査に進むことはなく「申告是認」として調査が終了し、同時に申告も完璧なものとして取り扱われます。
個人で申告することが必ずしもデメリットではありません。
しかし相続税の調査の注意点を熟知している税理士に依頼することも、その後の税務調査まで考えればメリットといえます。