相続が発生し、相続税を計算したら現預金は少ないのに土地や建物で多額の税額が発生するのは珍しいことではありません。このようなとき専門家に相談するのも大切ですが、相談するにあたって少し知識を持っておくのもおすすめです。
延納や物納など、どうしても納期限までに現金納付できないときにはできる手段があります。
土地の相続税が支払えない場合
土地の相続税が支払えない場合
- ①延納
- ②物納
- ③資産を売却して資金調達をしてから納付する
という3つの方法があります。
いずれの方法も「今相続税が納付できない」という場合に有効な方法です。ここではこの3つの方法について解説します。
対処方法①延納の選択
延納利子税はかかりますが、5年から20年の間で分割納付可能です。当然ですが税務署への申請は必須です。
利子税の役割は、本来期限内に納税をしている人との公平性を図るために課税しています。延納は申請をしてから3カ月以内に許可または却下の判断が税務署より下されます。
延納利子税は、延納期間で率が変わるので検討している場合は確認が必要です。延納の要件は次の通りです。
- ①相続税が10万円以上
- ②金銭での納付が困難で、かつ納付困難とする範囲内である
- ③円納税額及び利子税の額に見合う担保の提供
※ただし延納期間が3年以下で税額が100万円以下の場合は必要なし
→担保として認められているものは「国債及地方債・社債などの有価証券(税務署長が認めるもの)・土地・建物や立木、登記されている船舶(保険に附したもの)・鉄道財団や工場財団・税務署長が認めた保証人の保証」です。
④納付期限、または納付すべき日までに延納申請書に担保提供関係書類を添付して所轄税務署へ提出
※円の利子税の計算方法は次の通りです。
延納利子税割合(年割合) × 延納特例基準割合(※) ÷ 7.3%
(注)0.1%未満の端数は切り捨て
また延納から物納へ変更も可能です。
その場合、延納条件での納付が困難となった場合に、申請期限から10年以内に限り未納部分の税額について変更可能です。(特定物納)
ただしあまり一般的な方法ではないので、自身で判断するのではなくよくわからない場合には専門家に相談することをおすすめします。
対処方法②物納の選択
延納でも金銭で納付が難しい場合は「物納」という方法が認められています。延納同様、物納にも次の要件があります。
- ①延納でも金銭での納付が難しく、納付が難しいとする金額を限度としている
- ②下の表で紹介する財産及び順位で日本に所在しているもの
- ③納付期限、または納付すべき日までに物納申請書に物納手続関係書類して所轄税務署へ提出
順位 | 財産の種類 |
---|---|
第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(社債、株式等の有価証券のうち、金融商品取引所に上場されているもの) |
不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2順位 | 非上場株式等 |
非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3順位 | 動産 |
ここに出てくる「物納劣後財産(管理処分不適格財産のうちの1つ)」を簡単に表現すると、換金性が非常に低い財産のことです。
税務署が「物」で納税してもらっても換金性が低いために税額と同等の回収ができない財産と言い換えることができます。
また、すでに何かの担保に入っている場合も物納財産として認められません。では参考までに、管理処分不適格財産について簡単に紹介しておきます。
- 不動産の場合
イ)担保が設定されているもの
ロ)誰の所有なのか帰属に対して争っているもの
ハ)境界がわかりにくいもの、通常の使用をするために訴訟をしなければ自由に使用できないもの
- 株式の場合
イ)金融商品取引法やその他の法律の規定で一定の手続きが定められている株式の場合、その手続きが取られていないもの。
(例えば、中小企業や同族会社に多い譲渡制限付株式など)
ロ)質権やその他担保の設定がされているもの
ハ)共有の帰属の株式や、帰属者について訴訟中のもの
- その他の場合
不動産の場合イ)・ロ)、株式の場合イ)に準ずるものとして税務署長が認めるもの
※その他にも、国税庁のHPには掲載がりますが客観的に判断してこの3つに該当する場合は注意が必要です。
対処方法③他の財産を売却して現金を調達
結果的に相続税を現金で納付する方法です。相続財産に含まれている資産を売却して資金調達し相続税を納付する方法です。
すでに相続財産として引き継いでいるものなので、納付する相続税の計算に含まれているものになります。
納税資金確保のために売却するといって、相続税の課税対象でなくなるということはありません。
要注意!不動産を売却して納税資金を確保するとき
不動産を売却し相続税の納税資金を確保することは珍しいことではありません。しかし注意しなければならないポイントがあります。
それは引き継いだ不動産が「売却できる状況にあるかどうか」という確認と、場合によっては相続税とは別に所得税が課税されることもあるのです。
そこで「売却できる状態」と「所得税」について解説します。
売却できる状態にする必要アリ
まず相続により引き継いだ不動産を売却する場合には、その不動産が確実に相続人のものであるということを証明しなければなりません。
延納する場合は別ですが、通常不動産を売却して資金調達を行う場合には相続税の納税期限までに納付することを目的としています。
つまり、相続税の申告と同時進行になります。その場合、相続人が引き継いだ不動産の登記に行く時間がない可能性があります。
そのような場合は、「遺産分割協議書」を利用します。他にも必要書類はありますが遺産分割協議書がなければ、ほかの書類をいくらそろえても売買することはできません。
ベストなのは被相続人から変更登記を完了させること、それが間に合わないのであれば遺産分割協議書とその他の書類をそろえることです。
場合によっては「譲渡所得」が発生することも
譲渡所得とは「所得税」を計算する中で発生する所得です。「譲渡」ですから売り手側の所得を指します。
ではなぜ相続で引き継いだ不動産に「譲渡所得」が関係するのでしょうか。不動産売買により発生する譲渡所得は、もともとその不動産を購入した価格から売却するときの価格を差引し、いわゆる「儲け」が出たら、その儲け部分に所得税が課税されます。
もちろん購入するときも売却売るときも、仲介手数料などの付随費用も考慮して計算します。よほどの一等地の不動産を売却しない限り、中古物件で儲けが出ることは少ないですが、更地で所有している一等地であれば、売却により利益がでる可能性は否定できません。
「売却して所得税の納税資金も必要になる」というのも意識しておく方がよいでしょう。
また不動産で相続税の納税資金の準備をするときにはもう1つ注意点があります。それは売却価格です。
納税資金だけを意識して売却価格を決めがちです。
しかし実際売却するときには仲介手数料など付随費用が発生し、売却価格から控除して実際に手もとに残る金額が思っていた以上に少ないということも珍しくありません。
現預金はそのまま所持している金額が相続財産ですが、不動産は相続税評価額というのがあるので予想以上に安い場合や、またその逆で高い場合もあります。
安い場合は納税資金分が足りているかどうか、高い場合は譲渡所得でとして所得税の課税額がいくらになるのか把握しておくのがよいでしょう。
まとめ
土地の相続税が納付できない場合は、延納、物納、資産を売却して納税資金を確保する方法の3つがあります。
本来であれば、納税期限までに現金納付ができることが理想ですが、それが無理でも代替の方法はあります。
特に物納の場合は計算方法や要件が複雑なので、専門家に相談することも選択肢としておすすめします。
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