事業をされている方の中には「約束の期日までに取引先からの入金がない」という経験をされた方もいらっしゃると思います。入金がされない理由としては「振込日に残高が不足していた」といううっかりミスから、「資金繰りが苦しくて支払えない」という経営上の問題による場合などさまざまです。
しかしいずれにしても、適切な対応をしなければ、ますます回収が困難になったり、時効により権利そのものが消滅してしまうこともあります。
この記事では、未入金があった場合の対応方法と、不測の事態を防ぐための準備について解説いたします。
代金後払いのリスクについて
事業における支払いは、その多くが「売掛け」という形の後払いとなります。しかし、売掛や後払いをした場合には、次のようなリスクがあります。
すぐに入金がされないため資金繰り悪化の要因となる
代金の支払いを売掛けとした場合、数ヶ月にわたって入金が遅れることとなります。例えば、入金の条件が「毎月末締め、翌月末払い」となっている場合、入金されるまでの期間は最大2ヶ月となります。
また、通常は売掛金の支払いに先行して買掛金や経費の支払いが発生するため、売掛金の入金までにこれらを支払うだけの資金がないと、運転資金の借入れをする必要が生じます。
代金が支払われる保証がない
売掛は無担保・無保証で行う、一種の信用貸しです。代金が支払われなかった場合の担保や保証人といった引き当てがないため、万が一、期日に支払いがされなかった場合には、その回収が非常に難しくなります。
売掛けには、このようなリスクがあるため、これを行う場合には、資金繰りや未払いが発生した際にどうするかなどについて検討しておく必要があります。
代金が支払われない場合の対応の手順
後払いで代金の支払いがされない場合には、次のような手順で代金の回収を進めていくこととなります。
メールや文書による連絡と督促
代金の支払いが期日までにされないときには、まずはメールまたは手紙などで支払いの督促を行います。ただし、この時にいきなり厳しい態度で臨んでしまうと、かえって回収を困難にする可能性が高くなるため、穏便な態度で支払いをお願いするということか早期の解決につながります。
内容証明の送付
何度かメールや手紙による督促をしたにも関わらず、返信がない、もしくは支払い意思のないことが確認できたなどの場合には、内容証明を送って督促します。内容証明には督促をした事実を公的な記録として残し、一時的な時効中断を生じる効果がありますが、支払いを強制するものではありません。
また、裁判などでは内容証明の内容はこちら側だけでなく、相手にとっても証拠となるため、内容や書き方によっては、こちらにとって悪材料となることもあります。したがって、その表現には注意する必要があります。
支払い督促手続き
内容証明郵便で支払を請求しても相手が応じない場合には、裁判によらなくとも比較的簡単な手続きで支払いを督促できる仕組みがあります。これを「支払督促」といいます。
支払い督促とは、代金の支払いがされない場合に、簡易裁判所の書記官が相手方に金銭の支払いを命じる制度です。書類審査のみで迅速に解決を図れ、費用も数千円から数万円程度の少ない負担で済みます。支払い督促は、申立人の申立てにもとづいて、裁判所書記官がその内容を審査し、相手方の言い分を聞かないで金銭の支払いを命じるため、迅速に処理することが可能です
なお、支払督促を送っても、相手方がお金を支払わず、異議申立てもしない場合には、申立人は支払督促に仮執行宣言を発付してもらい、強制執行をすることができます。ただし、相手が異議申立てをした場合には、支払い督促は効力を失い、そのまま訴訟に移行することになります。
訴訟または少額訴訟
通常の訴訟
民事訴訟は、訴額(紛争の対象となる金額)が140万円以下の場合は簡易裁判所で、140万円を超える場合は地方裁判所で行われます。通常訴訟では、裁判官が認めれば証書(文書による証拠)に限らず、証人や当事者への尋問、鑑定などすべての証拠について取り調べをすることができます。
ただし、その分時間がかかることが多く、審理が行われる頻度も1ヶ月に1~2度程度のため、最終的な判決が出るまでには相当な時間が必要となります。
なお、手続きを弁護士に依頼した場合には弁護士費用が別途に必要となりますが、訴額が少ない場合や少額訴訟の場合には、弁護士費用の方が高くなることがあります。また、訴訟に勝っても相手が任意に支払いをしない場合には、財産に際する差し押さえをする必要がありますが、これらの手続きについては別途に費用が必要となります。
少額訴訟手続
少額訴訟手続とは,60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて,原則として簡易裁判所における1回の審理で紛争を解決する特別の手続です。市民間の規模の小さな紛争を少ない時間と費用で迅速に解決することを目的として,作られた制度です。
少額訴訟手続は,原告がこれを希望し,相手がそれに異議を申し立てない場合に行われます。少額訴訟手続では,審理をした当日に判決が出されるため、迅速に手続きを行うことができますが、提出できる証拠は書類などの証書に限られ、証人尋問や鑑定などのその他の方法での証拠調べはできません。
なお、少額訴訟手続の判決に対しては、同じ簡易裁判所に異議の申立てをすることができますが、地方裁判所に控訴をすることはできません。
その他にも,少額訴訟手続の利用回数は、1人につき同じ裁判所に対して年間10回までなどといった制限があります。
刑事告訴の検討
以上の手続きで回収か難しい場合には、刑事事件として告訴できないかを検討してみます。一般的に契約違反があったからといって、それを理由に刑事告訴をすることはできません。ただし、取り込み詐欺のように、その相手が同様の手口で何件も同じことをしている、はじめからから契約を守るつもりがなく、商品やお金を騙し取ることが目的であったという場合には詐欺罪に該当する可能性があります。
なお、被害にあった場合に被害届を出しただけでは、告訴とはならないため、正式に事件として調査してもらうためには告訴が必要となりますが、その場合には弁護士に依頼する必要があります。
請求から回収までの手続き
代金の請求から回収までの手続きは、相手の対応により次のいずれかとなります。
相手に支払い意思が感じられる場合
相手に支払い意思があると感じられる場合には、通常の手紙やメールによる督促手続きをした上でしばらく様子を見ます。
相手に支払い意思が感じられない、または支払い不能が予想される場合
複数回の督促をしても反応がない、もしくは相手に支払い意思がないことが明確な場合には、次のような手順で代金の回収を図ります。
もし、相手が財産の処分を図る可能性が高いような場合には、裁判所に処分禁止の仮処分などを出してもらい、財産の保全を図る必要がありますが、その場合には一定の金額(裁判所が決定)を供託する必要があります。
内容証明について
内容証明は、文書を差し出した事実を後日に証明することができる文書です。郵便局から送りますが、これを送ることのできる郵便局は、集配郵便局及び支社が指定した郵便局となっているため、すべての郵便局から出せるわけではないことに注意が必要です。なお、配達証明をつけることではじめて効果を生じるため、普通の郵便や書留で送っても内容証明とはなりません。
内容証明は、同じ文面で作成した書類を計3部作成して郵便局に提出しますが、作成や送付にあたっては
● 原則として、記号は1個1字としてカウントする
● 文字等を訂正/挿入/削除するときは、その字数および箇所を欄外または末尾の余白に記載し、差出人の印を押印する
● 謄本の枚数が2枚以上にわたるときは、そのつづり目に契印をする
などの細かな方式が決められているため、これに違反しないよう注意する必要があります。
未入金の振込手続きを依頼する催促メールの文例
督促メールの文例
未入金に対する督促状の見本としては、以下のようなものがあります。
督促メールを出す場合の注意点
① できるだけ丁寧な表現を心がける
未入金が生じたばかりの時は、その原因が明らかでなく、また、実際にはその原因も相手の勘違いや手続きミスということがほとんどです。にもかかわらず、いきなり敵意のある、または相手を責めるような文面で督促したのでは、回収できるものも回収できなくなってしまいます。
したがって、まずはメールなどにより、丁寧な言葉で相手の支払い意思を確認することが重要となります。ただしその上で、相手に支払意思がないと判断できるような場合には、さらに強い表現の文面にして再度メールで督促するか、内容証明を送付するようにします。
② 金額に間違いがないかを確認する。
督促の連絡をする場合には、金額に間違いがないかをしっかりと確認しておく必要があります。「本当は支払われていた」とか「本来より多額の請求をしていた」などの間違いがある場合には、 その会社との取引が継続できなくなるだけでなく、会社の評判を大きく落とす原因となります。
このように相手に未払金の請求をする場合には、何度も金額のチェックをし、その金額や請求根拠に間違いがないかを十分に確認しておく必要があります。
③ 余計なことは書かない
督促をする場合には、あまり回りくどい挨拶などはせず、請求の主旨と金額程度を明記するようにしましょう。あまり余計なことを書いてしまうと、主題がぼやけて、言いたいことが十部に伝わらなくなる恐れがあります。ただし、内容が込み入っている、相手との理解に相違があるというような場合には、購入から請求に至った経緯や、詳しい状況を補足として付け加えた方が、早い解決につながりやすくなります。
なお、通常の督促の場合でも、請求日時や請求額、振込口座、支払期限などは、記載しておくべきといえます。
④ 感情的な表現や対応とならないように注意する
何度も督促をしたにもかかわらず、相手からの返信がないような場合には、つい、感情的な文面となりやすいですが、このような場合でもできるだけ感情を抑えて要件のみを伝えるようにしましょう。また、「訴える」や「告訴する」などの表現も場合によっては有効となりますが、使いどころを間違えると、こちらの不利となる可能性もあるため、できるだけ冷静な表現とし、もし、使う場合でも「今後、ご連絡がない場合には、法的対応も検討する可能性があります。」程度にとどめておいた方がよいでしょう。
回収不能とならないための準備の仕方
代金の請求をしても、もし、相手に支払い能力がないような場合には、裁判で勝っても回収をすることはできません。このような回収不能を起こさないためには、取引の時点から注意しておく必要があります。
会社の登記事項証明は必ず確認する
取引の相手が法人の場合は、法務局にその会社の登記事項証明(以前の登記簿謄本)が用意されているので、取引を始める前に必ずこれを取得して内容を確認しておきます。法人や◯◯会社と名乗っているにも関わらず、登記事項証明書が取得できないときは、そもそも会社が存在していないので、その時点で即刻取引を中止した方がよいでしょう。なお、登記事項証明書の末尾に「◯年◯月◯日に◯◯県◯◯市◯◯から本店移転」と記載されている場合には、念のため、閉鎖謄本も取得します。
なぜなら、他の休眠会社を買収して詐欺の器として利用している可能性があるからです。このような会社では、休眠会社のすべての登記事項を現在の会社のものに変更するのが常套手段ですが、その際には登記事項証明書に先のような記録が残るため、これを追って閉鎖登記簿を取得すれば、おおよその状況がわかります。
なお、相手が個人事業主の場合には登記簿謄本はありませんが、その場合には税務署へ開業届の提出をしているはずですので、これを提出してもらい内容を確認します。中には、「忙しくて開業届を提出していない」という方もいますが、その場合は正式な形での事業を行っていないことになりますので、取引を見合せた方がよいでしょう。
インターネットで情報を取得する
最近では、ほとんどの会社でホームページを持っているのが当たり前となっています。したがって、ホームページのアドレスがわかる場合には、そのページを閲覧し、そこに記載されている会社の概要と登記事項証明書の内容(とくに本店所在地や役員)に相違がないかを確認します。
なお、インターネットで「その会社の名前+評判」などのキーワードで検索することでも、有力な情報が得られることがあります。
会社の番号や個人の携帯番号に電話をかけてみる
相手から名刺を取得した場合は、会社の代表番号や代表者の携帯番号に電話をし、本当にその番号が存在するかを確認します。「いつかけてもでない」、「通話ができない」「いきなり秘書サービスに転送される」などの場合は、要注意といえます。
事務所が本当に存在するかを確認する
会社の登記事項証明書に記載されている本店所在地に実際に出向いて、本当に事務所が存在するのかを確認します。
事務所所在地が遠方の場合には実施するのが難しいケースもありますが、詐欺目的の会社の場合は
● 指定の場所に、事務所そのものがない
● 事務所はあるが、人の出入りがない
● レンタルオフィスで登記だけしている
のいずれかであることがほとんどのため、実態かあるかどうかを確認することは重要といえます。
許認可会社の場合には、監督官庁の名簿等で確認する
相手の会社が何らかの許認可を必要する事業をしている場合には、その許認可を監督する官庁のホームページで「その会社がきちんと登録されているか?」を確認します。通常、詐欺を働く会社では、許認可まで取得していないことがほとんどのため、この確認をして登録がされていない場合には、詐欺目的の会社である可能性が高まります。
しかし、中には建設業の500万円未満の工事会社のように、必ずしも許認可を取得していなくとも事業ができる場合もあるため、このような例外に該当しないかにも注意する必要があります。
代表者の身分証明書をコピーする
取り込み詐欺や計画倒産を考えているようなケースでは、会社の情報を見せることはあっても、代表者が個人の情報を見せることを極端に嫌がります。そのため、取引をする前には、名詞だけでなく、シッカリと代表者の免許証等のコピーを取って身元を確認しておく必要があります。
金融機関の口座情報を確認しておく
回収不能を防ぐために以外と重要なのが、「相手の金融機関の口座情報の確認」です。なぜこれが重要かといえば、万が一、相手の預金口座を差し押さえるときには金融機関名や口座番号などがわかっている必要があるからです。これらの情報は、金融機関では、債権者からの問い合わせであっても教えてくれため、あらかじめ入手しておく必要があります。
3回目までは、半額を現金でもらう
取引をする際には、はじめてのときだけでなく、できれば3回目くらいまでは半額を現金でもらうようにしておくと安全です。なぜなら取り込み詐欺では、相手に信用させるため2回目くらいまでは現金で支払うことが多いからです。そして3回目以降の取引で大きな取引を掛けで持ちかけ、そのまま逃げる、倒産するというのが常套手段です。そのため3回目ぐらいまでは半金を現金でもらうなどとしておくと、万が一のときも大きな損害となりにくくなります。
決算書を提示してもらう
詐欺会社などではどんなに上手く繕っていても、決算書までは作っていないのが普通です。また、仮にこれを作成していたとしても、たいていは実質的な取引がないことがその内容からわかります。
決算書を提示してもらう場合には、貸借対照表と損益計算書だけでなく、 できれば勘定科目明細を含めたすべての資料を提示してもらうようにしてください。
なぜなら、その他の部分には、会社の基本情報や関係者、使用している銀行口座や取引先、借入先などの重要な情報が含まれているからです。なお、決算書が提示された場合には、「資本金の額」、「株主構成」、「貸借対照表と損益計算書の内容」、「取引先金融機関」、「取引先企業」などの情報を重点的に確認しますが、情報の読み取りに自信がない場合には、顧問税理士などに協力してもらうのがよいでしょう。
代表者に連帯保証をしてもらう
相手の会社の支払い能力が乏しいと思われるような場合には、代表者等に連帯保証人になってもらうようにします。これにより、会社が倒産した場合でも、代表諸個人から取り立てをすることが可能となります。なお、相手が手形の発行をしている会社の場合には、請求額と同額の手形を発行してもらい、それに相手の会社の代表の裏書をしてもらうことでも、連帯保証と同様の効力を得られます。
相殺できる準備をしておく
相殺とは、自分と相手に同じ種類の債権がある場合に、債権同士を対等額で打ち消し合うことで、清算する法律行為のことをいいます。相殺は条件が整えば、相手の同意なしで、一方的な意思表示だけでこれを行うことができるため、代金の回収に役立てることができます。
例えば、取引先であるA社が代金の支払いに応じてくれない場合、A社が販売している商品を購入して、双方の支払いを相殺するなどが考えられます。(購入した代金は売却)ただし、有効に相殺をするためには、法律で定められた条件が必要となるため、あらかじめ専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
代金が未払いとなったときの回収対応にはいくつもの方法がありますが、いずれの場合もできるだけ早く行うことが重要となります。また、再度の督促にも関わらず、相手に支払いの意思が見られない、もしくは支払うだけの資力がない場合には、さらに手続きをすすめ、訴訟や仮差押えなどを行う必要があります。
代金は請求しただけでなく、その回収ができてはじめて目的を達成することができるものです。したがって、請求の段階から回収をすることを想定し、状況にあった手続きをしていくようにしましょう。
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