小規模宅地の特例について、言葉は知っているけど、内容まではよく知らないというのが本音ですよね。
でも、この小規模宅地の特例の内容を知っているかどうかで大きく税額が変わります。
相続税は生前の被相続人が残した財産について、相続人に権利が移転するタイミングをとらえて課税されます。
相続税に関しては税負担を減らすための様々な特例が用意されていますが、国民側に有利なルールについては税務署の方からわざわざ親切に教えてくれることはありません。
特例の存在を知らずに過大な税金を納めても、税務署が積極的に「納め過ぎですよ」と指摘してくれることはないのです。
つまり特例の存在を知らないのは自己責任ということになり、相続人となる人は積極的に自分に有利な施策について勉強する必要があるということですね。
相続税の特例で有名なものに「小規模宅地の特例」がありますが、もしこの存在を知らないでいると、本来減らせるはずの多額の税金を支払う羽目になってしまいます。
この回では相続の際に必ず押さえておきたい「小規模宅地の特例」について詳しく解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
ただし、この小規模宅地の特例という制度は、非常に複雑なため「難しいな」と感じた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください!
目次
小規模宅地の特例ってどんな制度?
日本の相続の特徴として、多くのケースで相続財産に土地が含まれます。例えば田舎の実家を相続し、戸建ての家と土地を相続するような場合が代表例です。
経年劣化がある建物と違い、土地は基本的に価値が下がるということがありません。そして一般的には高額な財産として評価されるため、土地にかけられる相続税は高額になりがちです。
高額な税金を支払えるだけの現預金が残されていれば良いですが、必ずしも十分な流動資産が用意できないこともありますよね。
その場合、残された相続人は相続税を納めるために土地を売らなければならないということになります。遊んでいる余分な土地であればそれでもよいでしょう。
しかしその土地が、相続人が引き続き住むための土地だったり、事業を営んでいくための土地だった場合はどうでしょう?
土地を売ることで自分の住む場所がなくなってしまう、事業を続けることができなくなってしまうという事態になると、国民側の負担は単にお金の問題ではなくなります。
国としても、国民が住処を失ってしまったり、事業の継続ができなくなり税収が減ってしまうことは当然避けなければならないという考えです。
そこで、一定の条件を満たす土地(宅地)については、特別に相続財産としての評価を下げることにより、税負担を減らせる制度を用意しています。
それが本章で取り上げる「小規模宅地の特例」です。
この特例は一定の宅地の相続税評価額を最大80%減額させることができます。
小規模宅地の特例を利用することで評価額が下がれば、税率をかけて算出される税額が小さくなるので、その分税負担が軽減されます。
この点、財産としての評価を下げるということで心配される方もいらっしゃいますが、この特例はあくまで相続税の計算上で評価を下げるだけです。
市場価値が下がるということではないので心配しなくても大丈夫ですよ。
どれだけ負担が減るか実測してみよう
ではこの特例がどれくらいお得なのか、イメージを捉えるために単純な計算例を見てみます。
ここでは話を単純化するために、あえて相続税の基礎控除については考慮しません。
前項で、小規模宅地の特例を利用すると最大80%の評価減となる旨お話ししましたが、財産としての評価額を下げるのであって、税金そのものが80%減額されるということではないので、混同の無いようにしましょう。
例えば、相続税評価額が1億円の宅地があるとしましょう。
1億円の相続財産にかかる相続税率は30%で700万円の控除額が付きますから、計算すると相続税額は以下のようになります。
1億円×30%-700万円=2300万円
小規模宅地の特例を利用して宅地の評価が80%減額されれば、2千万円の土地として評価することができます。
2千万円に対応する税率は15%で控除額が50万円付くので、計算すると以下のようになります。
2千万円×15%-50万円=250万円
その差額は2300万円-250万円で、2050万円もの相続税を減らすことができる計算です。
実際の相続税の計算はもっと複雑ですが、小規模宅地の特例を利用することで大きな税負担の軽減が望めることについて大体のイメージを持つことができたでしょうか?
ここで気になるのが“最大で”80%という数字ですね。
この特例が厄介なのは、減額される割合や、特例が適用になる面積が宅地の種類によって変わってくることです。
本特例では宅地を4つの種類に分け、種類別に減額割合や限度面積を考えていくことになります。
次の項ではこの点を押さえていきます。
減額割合や限度面積は宅地の種類によって変わる
本特例を利用できるのは、以下の4種類の宅地です。それぞれの宅地について、減額される割合や特例の適用を受けられる限度面積と一緒に表にまとめてみます。
|
宅地の種類 |
減額される割合 |
限度面積 |
① |
特定居住用宅地等 |
80% |
330㎡ |
② |
特定事業用宅地等 |
80% |
400㎡ |
③ |
特定同族会社事業用宅地等 |
80% |
400㎡ |
④ |
貸付事業用宅地等 |
50% |
200㎡ |
名前が難しくて戸惑いそうになりますが、簡単にいうと①の特定居住用宅地等というのは被相続人や同人と生計を一にしていた一定の親族が居住用として使っていた宅地のことです。
税理士としての実務上ではこの種類を扱うことが一番多いと実感しており、多くの方の相続税を軽減することに成功しています。
②の特定事業用宅地というのは、被相続人や同人と生計を一にしていた一定の親族が事業(貸し付け業以外)を行うために利用している宅地です。
③の特定同族会社事業用宅地等というのは、一定の法人の事業(貸し付け業以外)に使用されている宅地をいいます。
一定の法人とは、被相続人やその親族等が発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している法人をいいます。
少し難しいですが、要するに被相続人等が経営権を握る法人の事業(貸し付け業以外)に使用されている宅地と考えて差し支えありません。
④の貸付事業用宅地等というのは、被相続人や同人と生計を一にしていた一定の親族等が貸付業を行うために使用している宅地をいいます。
アパート経営や貸し駐車場などの貸付け事業に利用されていた宅地と考えてください。
貸付事業用宅地等は減額割合や限度面積が他の種類よりも少なくなっています。
宅地の種類ごとに適用条件が異なる
前項では宅地の種類ごとの減額割合や限度面積を確認しましたが、特例の適用を受けられるかどうかについても、種類ごとに条件が違ってきます。
特例の適用を受けられるかどうかは、宅地の種類別に以下のような要素を個別に勘案して判断されることになります。
- 相続発生前の宅地の利用状況
- その宅地を誰が取得するのか
- 取得した宅地をどのように利用するのか
etc
以下では宅地の種類ごとに、適用を受けるための条件を確認していきます。
特定居住用宅地等
おそらく最も多くの国民が利用するであろう特定居住用宅地等については、かなり要件が複雑化するためとっつきにくさがあることは否めません。
特定居住用宅地等については以下の順番で要件確認を進めていくと整理がしやすいでしょう。
①相続発生まで誰に使用されていたのか
②誰がその宅地を相続するのか
③上記②の宅地取得者にどんな要件が課せられるのか
まずは上記①が2パターンに分かれます。
パターン1として被相続人本人の居住用に供されていた場合と、パターン2として被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた場合で特例の適用要件が変わってきます。
【パターン1】被相続人本人の居住用に供されていた場合
宅地を取得する者 |
取得者ごとの要件 |
被相続人の配偶者 |
なし |
被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族 |
相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に居住し、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで売らずに保有していること。 |
上記以外の親族 |
原則として次の(1)~(6)の要件を全て満たすこと (1) 居住制限納税義務者(注1)又は非居住制限納税義務者(注2)のうち日本国籍を有しない者ではないこと。 (2) 被相続人に配偶者がいないこと。 (3) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続放棄をしたかどうかは関係なし)がいないこと。 (4) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人(注3)が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと。 (5) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。 (6) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで売らずに保有していること。 |
(注1)原則として税法上国内財産のみに相続税を課税される者で、相続時に日本国内に住所を有する者をいいます
(注2)原則として税法上国内財産のみに相続税を課税される者で、相続時に日本国内に住所を有しない者をいいます
(注3)発行済み株式総数等の10分の5を超えて保有するなど経営権に大きな影響を持つ場合の、その法人をいいます
【パターン2】被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた場合
次に、パターン2として被相続人本人ではなくその親族の居住用に利用されていた宅地について見てみます。
宅地を取得する者 |
取得者ごとの要件 |
被相続人の配偶者 |
なし |
被相続人と生計を一にしていた親族 |
相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで売らずに保有していること。 |
これに関しては後述する「家なき子特例の改正に注意!」の項で詳しく解説します。
特定事業用宅地等
特定事業用宅地等は貸付業以外の事業の用に供されていた宅地です。
この種類の宅地に関しては以下の要素が特例適用の有無に関係してきます。
- ①相続発生まで誰に利用されていたのか
- ②事業承継要件
- ③保有継続要件
次の表の宅地の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した場合に適用があります。
宅地の区分 |
特例の適用要件 |
|
被相続人本人の事業に使用されていた宅地 |
事業承継要件 |
被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつその事業を申告期限まで引き続き営んでいること。 |
保有継続要件 |
その宅地等を相続税の申告期限まで売却せずに保有していること。 |
|
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業に使用されていた宅地 |
事業承継要件 |
相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。 |
保有継続要件 |
その宅地等を相続税の申告期限まで売却せずに保有していること。 |
基本的に、被相続人や近しい一定の親族が営んでいた事業に支障をきたさないようにするのが特例の目的ですので、相続税の節税のために駆け込み的に事業を始めたような場合は特例の利用が制限されます。
原則として、相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等(「3年以内事業宅地等」といいます)は上記の要件を満たしても特例を利用することはできません。
ただし例外もあり、一定規模以上の事業を行っている場合や、平成31年4月1日から令和4年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、平成31年3月31日までに事業の用に供された宅地等については「3年以内事業宅地等」とみなさない扱いになっています。
特定同族会社事業用宅地等
特定同族会社事業用宅地等は、被相続人や同人と近しい一定の親族が経営権を握っている法人に使用されている宅地をいいます。
この種類で問題になるのは以下の2つの要素です。
- ①法人役員要件
- ②保有継続要件
次の表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した場合に適用があります。
宅地の区分 |
特例の適用要件 |
|
一定の法人の事業の用に供されていた宅地等 |
法人役員要件 |
宅地を取得した者が、相続税の申告期限においてその法人の役員であること。 |
保有継続要件 |
その宅地等を相続税の申告期限まで売却せずに保有していること。 |
貸付事業用宅地等
被相続人等が行うの貸付業に使用されていた「貸付事業用宅地等」についても、相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(「3年以内貸付宅地等」といいます)は原則として特例の対象外にされます。
細かい例外もあるので、必要に応じて相続税に明るい税理士に確認するようにしてください。
この種類の宅地が特例の適用を受けられるかどうかは以下の要素が関係してきます。
- ①相続発生前に誰に使用されていたのか
- ②事業承継要件
- ③保有継続要件
次の表の宅地の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した場合に適用があります。
宅地の区分 |
特例の適用要件 |
|
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等 |
事業承継要件 |
その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、申告期限までその貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 |
その宅地等を相続税の申告期限まで売らずに保有していること。 |
|
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等 |
事業承継要件 |
相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。 |
保有継続要件 |
その宅地等を相続税の申告期限まで売却せずに保有していること。 |
なお、日本郵便株式会社に対して貸し付けられている宅地については特殊な取り扱いがあります。
一定の要件を満たす場合、貸付事業用宅地等としてではなく、特定事業用宅地等に該当する扱いにできることがあり、その場合は減額割合が増え、限度面積も増やすことができます。
もし日本郵便株式会社に貸している宅地があれば優遇される可能性があるので、ぜひ相続税に明るい税理士に確認してください。
家なき子特例の改正に注意!
実務上最も多く利用されるのは「特定居住用宅地等」であると上の項でお話ししましたが、この種類の宅地に関してはルール変更が行われた経緯があります。
方向としては国民側が不利になるように制度が厳格化されてしまったため、柔軟な運用ができなくなっています。
というのも、以前のルールでは制度の穴を付く形で、ルールの趣旨に適さない適用事例が頻発したため、これを封じるために制度が厳格化されたのです。
前項の特定居住用宅地等の適用要件を示した表を見直してみてください。
最も複雑な要件が付されているのは宅地を取得する者が「上記1、2以外の親族」となっている欄ですよね。
ルールの改正前は、この親族は以下の要件を満たしていれば特定居住用宅地等としての適用を受けることができました。
- 被相続人に配偶者や同居の親族がいないこと
- 宅地を相続した者が、相続開始の3年前までに自分または自分の配偶者が保有する持ち家に住んだことがないこと
- 相続税の申告期限までその宅地を保有すること
この種類の宅地に係る特例の本来の趣旨は、自分や自分に近い人が所有する持ち家がない人(家なき子)が、亡くなった被相続人が残した宅地に引っ越し、その土地を相続人の手で守っていくことを後押しすることです。
その趣旨に合致すれば相続税の負担を減らしてあげますよということだったのですが、80%の評価減を受けられることは非常に大きなうま味になりますから、本来制度の適用を受けるべきではない人が、ある意味工夫を凝らして無理やり適用対象になろうとする事例が頻発し、問題になったのです。
例えば、自分ですでに持ち家を所有する相続人は「家なき子」ではありませんから、特例を受けることはできません。
しかし8割の評価減のメリットを受けられないのは非常にもったいないと考えます。
そこで、相続を見越して事前に自分の持ち家を親族などに売却し、名義を自分のものでなくして3年超経てば、形式的に「家なき子」に該当させることも不可能ではありません。
売却した家の名義が変わっても、話し合いの上でそのまま住み続けることはできますから、生活上は問題もでません。
この他にも抜け穴的な利用方法はいくつかあり、そうした方法を使って特例の適用を受けようとする人が続出したため、平成30年度の税制改正で要件が追加され、上述したような難しい要件整備となったわけです。
まず、(4)番として「三親等内の親族」や「特別の関係がある一定の法人」に形だけ売却して名義を変えるような行為を封じるため、相続開始前3年以内これらの者が保有する家屋に住んだ事がある場合は適用から外れる作りになっています。
そして(5)番として、相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと、という条件も付いています。
これで、無理やり「家なき子」になろうとする動きを封じられてしまうわけですね。
ただしこのルール改正は国民に与える影響が大きいことから一定の緩和措置が取られています。
平成30年3月31日現在時点で、上述した改正前のルールにおける「家なき子」に該当している場合、令和2年3月31日までに発生した相続については改正前のルールに則って特例を利用することができます。
特例を利用するには申請が必要です
さて、利用することができれば相続税の負担を大きく減らすことができる小規模宅地の特例ですが、利用するには必ず手続きが必要です。
ケースによっては、宅地を減額評価することで相続財産が基礎控除以下となり納税が不要なケースも出てきます。
その場合でも、本特例を利用するのであれば必ず相続税の確定申告書を作成し、本特例を受ける旨を記載したうえで、必要な添付書類を付けて税務署に申告しなければいけません。
小規模宅地等に関する計算の明細書や遺産分割協議書の写しの他、適用する宅地の種類別に色々な添付書類が求められます。
必要な資料の作成、収集は素人の方にはかなり手間ですので、専門家に任せてしまうのが確実で負担がありません。
まとめ
本章では相続税の計算の際に宅地の評価を減額計算することができる「小規模宅地の特例」について詳しく見てきました。
最大で80%もの評価減を受けることができ、結果として相続税の負担を大きく減らすことができる大変有利な施策です。
知らないとその分の税金を余計に支払うことになってしまうので、可能であれば必ず利用するべきです。
ただし要件が複雑で手続きも必要なことから、素人の方には難しいのが難点です。
専門家の助力があれば漏れの無いメリットの享受が可能になりますから、必要に応じて検討しましょう。
当事務所は相続税に関するあらゆる手続きに精通していますので、全ての手続きにワンストップで対応することができます。
小規模宅地の特例に関しても、第三者ではなく「100%あなたの味方」として相談に応じます。
無駄な税金を絶対に払いたくないという希望に確実にお応えしますので、是非お気軽にご相談頂ければ幸いです。