国税局OBが教える!農地の相続税を安くするには?

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国税局OBが教える!農地の相続税を安くするには?
みそら
みそら

日本はカロリーベースの自給自足率がかなり低く、国民の食糧は外国からの輸入に頼っているのが現状です。できるだけ自国内で食料の確保ができるよう、国内の農地は政策上の縛りがきつく、自由な利活用が制限されます。

その上、相続税の負担については高額になるケースもあるので、農地所有者の方は色々と不安が絶えません。

本章では相続税の面にスポットを当て、農地の相続税負担を少しでも減らすための方法について解説していきます。

農地は固定資産税が安くても相続税評価が高い!?

農地は相続税だけでなく固定資産税の課税対象にもなりますが、農地の固定資産税は宅地と比べてかなり安くなることが多いです。

そのため「農地だからあまり高く評価されないんだな」と安心する人がいますが、相続税評価については固定資産税とは別物なので決して安心できません。

市街地にある農地については宅地に準じた評価法「宅地比準方式」が適用になり、かなり高額の評価となることがあるのです。

そのため相続を機に農地問題が表面化する事例も多く聞かれます。

ただ、宅地比準方式が適用になるとしても、農地は減額評価できる要素がいくつかあるので、これらをうまく使うことで評価額を下げることができます。

これを次の項で見てみましょう。

農地の減額評価をうまく活用しよう

農地は以下のような減額要素により相続税評価額を下げることができます。

①貸し付け農地の減額

賃貸借や永小作権などの権利を設定し他人に貸し付けられている農地は、所有者の自由利用が制限される分評価を下げることができます。

②宅地造成費控除

宅地に準じて農地を評価する場合、宅地造成費を控除した価額で評価することができます。

宅地造成費は管轄の国税局が1㎡あたりの額を定めて公表しています。

③市街地周辺農地

この農地にあたる場合、市街地農地としての評価の100分の80相当の価額で評価できます。

④広大な農地の場合

三大都市圏は500㎡、それ以外の地域では1000㎡以上の広大な農地は、一定の要件を満たすことで減額評価できることがあります。

⑤生産緑地の場合

生産緑地法に定める生産緑地の場合も、一定の要件を満たすことで減額評価できることがあります。

以上のような減額評価の要素を使うことができれば、相続税評価額を小さくできる分、相続税額も小さくなる効果が生まれます。

さらに、次に見ていく納税猶予の特例を利用できれば、より大きな税負担の軽減が可能です。

相続税の納税猶予特例を検討しよう

農地に関しては相続税の納税猶予の特例が用意されているので、可能であればぜひ利用を検討したいものです。

先にもお話ししたように、農地は相続税評価額が大きくなることで税金の負担が思いのほか大きくなることがあり、農地所有者に大変な負担を強います。

税金が高くても儲けが大きければ問題になりませんが、農業によって得られる儲けは一般的にそれほど大きくありません。

納税資金を用意できなければ農地を手放さざるを得なくなりますが、そうなると国内の農地がどんどん減っていってしまう恐れがあります。

また国側としても、せっかく農業を続けたいと思っている人がいても、税金の負担のためにこれが絶たれるようなことは避けたい思いがあります。

そこで、一定の条件を満たす場合には相続税の支払いを猶予し、安心して農業を続けていけるように特例制度を設けたのです。

納税猶予の特例が創設されたのは1975年ですのでかなり前ですが、現在も農業は決して儲けの大きいビジネスではないので、農地所有者はぜひ特例の利用を検討しましょう。

どれくらいの税金が納税猶予の対象になる?

本特例は支払いが必要な相続税の全額を猶予されるわけではありません。

通常の方法で計算した相続税額と、農業投資価格によって計算した場合の相続税額を比較し、その差額について納税の猶予を受けられる仕組みになっています。

農業投資価格というのは、その農地が今後恒久的に農業に使用される土地として自由な取引がなされるとした場合に、通常成立すると認められる価格として国税局長が定める価格を言います。

素人の方には馴染みがないのでイメージが湧きにくいかもしれませんが、要するに使い勝手が悪く制限がある農地でも、最低限の財産的価値はあるはずで、であればその分に課税される税金分は猶予しないので支払ってくださいね、というものです。

それでも、農業投資価格は20万円~90万円程度/10aと非常に低い価格に抑えられているため、実質の負担はそれほど大きくならずに済みます。

猶予される期間

次に猶予される期間についても押さえていきましょう。

猶予される期間は農地の種類によって変わります。

農業振興地域や市街化調整区域にある農地については、相続税の申告期限から20年もしくは相続人が死亡するまでのどちらか早い方の期間が猶予対象期間です。

市街化区域内の生産緑地については相続人が死亡するまでが対象期間です。

もし上記両方の農地を所有している場合は相続人が死亡するまでとなります。

そして、上記の期間中ずっと営農を続けていれば、所要の手続きを怠らない限り、猶予期間が満了することで猶予された相続税について納税が免除されます。

免除ですからつまり納税の義務が根本からなくなるわけですね。

一定期間の間はあくまで猶予(先延ばし)されるだけですが、最終的には納税自体が免除されるので、単なる先延ばしではなくなり、納税義務から完全に開放されます。

これは農地所有者にとって大変大きなメリットですね。

特例を利用する条件は?

本特例を利用するにはいくつか要件を満たす必要があります。

大きく、農地の種類や性質に関する要件、被相続人に関する要件、相続人に関する要件に分かれます。

まずどのような農地が対象になるかですが、以前は相続人が自ら農業を行う農地だけが対象だったものの、今では対象が拡大しています。

市街化区域外の農地に関して特定貸付け(※1)を行った場合や、生産緑地地区内の農地について認定都市農地貸付け等(※2)を行った場合にも特例の適用対象になります。

(※1)農地中間管理事業及び利用権設定等促進事業によって貸し付けるものをいいます。

(※2)都市農地の貸借の円滑化に関する法律により認定を受けた事業計画に基づく貸付け(認定都市農地貸付け)又は一定の市民農園の用に供するための貸付け(農園用地貸付け)を指します。

次に被相続人となる者に関する要件ですが、以下のいずれかに該当する者が対象です。

①死亡の日まで農業を営んでいた者
②生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした者
※後継者に全ての農地を一括で生前贈与し、贈与税について納税猶予の特例を受けた者
③死亡の日まで特定貸付け又は認定都市農地貸付け等を行っていた者

また相続人となる者は以下のいずれかに該当する者が対象です。

  • ①相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後引き続き農業経営を行う者
  • ②農地に関して生前一括贈与を受けた受贈者
  • ③相続税の申告期限までに特定貸付け又は認定都市農地貸付け等を行った者

特例を利用するために、まずは上記の要件を満たす必要があります。

特例の利用にかかる手続きの方法は?

納税猶予の特例を利用するには、いくつかの役所を回る必要があり少し手間がかかります。

概ね以下の流れで手続きを進めていきます。

  • ①市町村の農業委員会で適格者証明書を発行してもらう
  • ②市役所で納税猶予の特例適用の農地等該当証明書を発行してもらう
  • ③税務署で納税猶予の手続きを行う

税務署で納税猶予の手続きを行う際には一定の担保の提供を求められます。

また一旦納税の猶予が認められたとしても、その後一定期間内に更新の手続きを行わないと納税猶予が取り消されてしまうので注意が必要です。

当初の相続税の申告期限から3年ごとに「継続届出書」を提出して納税猶予の適用を更新する手続きが必要になるので、忘れないようにしましょう。

地域によって手続きの流れが若干異なることもあるので、詳しくは地元で相続税の事件処理を多くこなしている税理士に確認するのが確実です。

特例利用にかかる注意点

農地にかかる相続税の納税猶予は、農業を続けていく相続人にとっては大きなメリットがあります。

しかし、もし途中で農業を止めたり農地を売却したりして耕作を放棄した場合、あるいは更新の手続きを怠った場合には、猶予されていた税額について一括での納付を求められることになります。

一括納付は資金の用意が難しいことも多いでしょう。

もし一括納付ができなければ、税務上のペナルティの対象になり、割増で余計な税金を納めなければならなくなる可能性があります。

一生涯農業を続けていくことができない可能性がある場合は、特例を利用するかどうかよく考える必要があります。

農業を続けていく自信がない場合、あるいは条件を満たせないことで特例を利用できない場合は別の策を検討しなければなりません。

これに関して次項で見ていきます。

納税猶予の特例以外に考えられる方法は?

納税猶予の特例を使わない、あるいは使えない場合は、仕方がないので相続税に関する別のルールを駆使して税負担の軽減を考えていくことになります。

ここでは二つの方法で相続税の負担軽減を考えてみます。

基礎控除を増やす

相続税には基礎控除枠があり、基礎控除を超える分のみが課税の対象になるので、基礎控除枠を増やせばそれだけ税負担を軽減できます。

基礎控除の計算方法をみてみましょう。

「3000万円+600万円×法定相続人の数」

上記の数字部分は固定されますが、「法定相続人の数」は意図的に増やすことが可能です。

養子をとることで基礎控除枠を増やす方法は昔から行われており、過度の税逃れと税務当局に判断されなければ基礎控除枠を増やして相続税の負担を下げることができます。

法定相続人が一人であれば3600万円までのところ、二人に増やすことで4200万円まで枠を増やすことが可能です。

ただし、養子を無制限に増やしても税法上で受けられる恩恵は限度があります。

被相続人に実子がいる場合は養子は一人まで、実子がいない場合でも養子は二人までしかカウントされないことになっています。

特別養子は実子扱いになるので人数は制限されませんが、特別養子を得るには民法上で制限がされるため自由な特別養子縁組はできません。

ちなみに、孫を養子にするということがよく行われますが、孫養子は相続税額が二割加算されるという別のルールもあるので注意が必要です。

配偶者に相続させて配偶者特例を使う

相続税には配偶者特例(配偶者の税額の軽減)のルールがあります。

この特例は被相続人の配偶者が相続税の負担を特別に軽減されるもので、法定相続分または1億6千万円を超えない範囲であれば相続税がかからないという特別な優遇策です。

農地の相続税の負担が大きいということであれば、複数相続人がいるケースでも配偶者に農地を相続させることで相続税の負担を下げたり、無くしてしまうことも可能です。

ただし、農地を相続した配偶者がその農地を適切に活用できるかどうかという問題もありますし、配偶者が亡くなり二次相続が起きた時のことも考える必要があります。

二次相続が起きると、その配偶者にかかる相続人に一気に相続財産が集中し相続税の負担も集中するので、配偶者の税額の軽減を利用して特定の遺産を集中させる場合は税理士と相談の上、将来問題にならないかどうか精査が必要です。

まとめ

本章では農地の相続税をできるだけ安くする方法について見てきました。

  • 減額要素を駆使して相続税評価を下げる
  • 農地に関する相続税の納税猶予特例を利用する
  • 相続税の基礎控除を増やす
  • 配偶者の税額軽減を利用する

以上のような方法が考えられますが、ケースによって利用できるもの、できないものがあり、利用できるにしても注意深く検討しなければならないものもあります。

どんな方法を検討するにしても、有利な方策をもれなく利用できるように、また思わぬ落とし穴にはまらないようにするためにも、必ず相続税に明るい税理士に相談しながら進めるようにしましょう。

当事務所では国税OBの税理士があなたの味方となって最善の方法を一緒に考えていきます。

是非お気軽にご一報頂ければ幸いです。

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